夏目漱石の小説に出てくる「美人」の描写を書いていきます。
彼岸過迄(千代子)
彼より先に一人の女が須永の門を潜った。敬太郎はただ一目その後姿を見ただけだったが、
青年に共通の好奇心と彼に固有の浪漫趣味とが力を合せて、
引き摺るように彼を同じ門前に急がせた。
ちょっと覗いて見ると、 もう女の影は消えていた。
例の通り紅葉を 引手に張り込んだ障子が、
閑静に閉っているだけなのを、
敬太郎は少し案外に かつ物足らず眺めていたが、
やがて沓脱の上に脱ぎ捨てた下駄に気をつけた。
その下駄はもちろん女ものであったが、
行儀よく向うむきに揃っているだけで、
下女が手をかけて直した迹が少しも見えない。
(初見)
・・・
廂髪に結った一人の若い女が立っていた
女は年に合わして地味なコートを引き摺るように長く着ていた。
敬太郎は若い人の肉を飾る華麗な色をその裏に想像した。
女はまたわざとそれを世間から押し包むようにして立っていた。
襦袢の襟さえ羽二重の襟巻で隠していた。
その羽二重の白いのが、夕暮の逼るに連れて、
空気から浮き出して来るほかに、女は身の周囲に何といって
他の注意を惹くものを着けていなかった。
・・・
右の手を耳の所まで上げて、
鬢から洩れた毛を後へ掻きやる風をした。
固より女の髪は綺麗に揃っていたのだから、
敬太郎にはこの挙動が実のない科としてのみ映ったのだが、
その手を見た時彼はまた新たな注意を女から強いられた。
・・・
女は普通の日本の女性のように絹の手袋を穿めていなかった。
きちりと合う山羊の革製ので、華奢な指をつつましやかに包んでいた。
それが色の着いた蝋を薄く手の甲に流したと見えるほど、
肉と革がしっくりくっついたなり、一筋の皺も一分の弛みも余していなかった。
・・・
敬太郎は女の手を上げた時、
この手袋が女の白い手頸を三寸も深く隠しているのに気がついた。
・・・
色が白くて、晴々しい心持のする眸を有っていた。
宝石商の電灯は今硝子越に彼女の鼻と、
豊くらした頬の一部分と額とを照らして、
斜かけに立っている敬太郎の眼に、
光と陰とから成る一種妙な輪廓を与えた。
彼はその輪廓と、長いコートに包まれた
恰好のいい彼女の姿とを胸に収めて、
また電車の方に向った。
・・・
敬太郎は女の笑い顔をこの時始めて見た。
唇の薄い割に口の大きいのをその特徴の一つとして
彼は最初から眺めていたが、
美くしい歯を露き出しに現わして、潤沢の饒かな黒い大きな眼を、
上下の睫の触れ合うほど、共に寄せた時は、
この女から夢にも予期しなかった印象が新たに彼の頭に刻まれた。
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最初に「彼岸過迄」を持ってきたのはアレでした・・・
で、ココにこれからのリンク
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返信削除最終章の啓太郎の話でなんか救われました。
一度は読んだのに(と思う)全く頭に残ってなかった。
主人公と千代子は恋愛関係に無いので
最初にコレをもってきたというのがアレかなと
「美人模写」面白いかな?と思ったけど
企画倒れになりそうな気が・・・
手間がかかって、メンドクサイ。
あ、こういう人が・・・
http://bit.ly/pJ3Ynw
↑ こういう人が、ボクはアレで、D-になるわけですが
読まずにはいられない。
けど、純粋に芸術と向き合うなら、向き合いたいなら
ちゅーか、向き合わないはずです。
ん?ナニを書きたかったか忘れた。
またアレやったら訂正します。
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返信削除あ、啓太郎(主人公)は、ある理由で
ある男を探偵をさせられるんです。
その時にいた女性が千代子です。
なので、少しくらいイメージがあるかもしれないです。
本編?になると、活発で明るい女性です。
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