それほど混んでいない電車の中で、
その人はあまりにも目立っていた。
それは、彼女がとても美しい人だった・・・というのも
一つの理由になるのかも知れないけど、
その事よりも彼女は、
ヒラヒラのレースがついた真っ白なドレスを着ていて
まるで、ひと昔前の映画に出てきそうな
黒人のメイドのようだった。
彼女は怒ってたのだろうか、
右手に持った一枚の紙を睨むように見ていた。
その紙には、何人かの名前、日付、時間が書いてあり、
バイトか何かのシフト表のようだった。
こんなに美しい人に何がそうさせているのだろう?
彼女の持つ紙が小刻みに震えているのは
車内の少しキツめ扇風機の所為ではなかった。
左肘にかけられた、かなり使い古された紙袋には
「ボン・ソワール」とかかれていて、
ボクは何となく、そこに行けば、また彼女に会えるのかな?
もしそうならいつでも会いに行きたいと思った。
でも、街で「ボン・ソワール」という喫茶店を見つけても、
やはり入ってはいけないのだろうなという気もした。
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「ボン・ソワールに行けない理由」
Sebastian 2002/05
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